INTERVIEW
兵庫県朝来市への西日本初の
フラクタ本導入を推進したキーマン、
兵庫県芳中氏に聞く、道のりと原動力とは
兵庫県朝来市への西日本初のフラクタ本導入を推進したキーマン、兵庫県芳中氏に聞く、道のりと原動力とは
OVERVIEW
日本鋳鉄管が、フラクタ社と共に日本の水道事業者にむけ普及を進めるフラクタAI。西日本において初の正式導入となったのは兵庫県朝来市だ。その成果を皮切りに、兵庫県だけでなくその他中小規模事業体においても導入が進んでいる。
兵庫県朝来市に導入が決まった背景には、兵庫県生活衛生課水道企画参事(当時)だった芳中氏の尽力があった。
早期タイミングでフラクタAI導入を推進した経緯と、
その原動力について芳中氏に聞いた。
EPISODE 1
日本の水道維持への危機感を、水道関係者は皆持っている
兵庫県の水道事業者の方々へフラクタAIの普及に尽力いただきましたが、当時の芳中さんの業務内容やミッションを教えてください。
日本の水道水は、世界でも貴重な「飲める水」です。この整備された水道インフラは世界でも類を見ない。しかし、現在この水道の維持は危機を迎えています。主に高度経済成長期に整備された水道管は、寿命による管路更新時期を迎えているにも関わらず、人口減少により水道料金の徴収額も減少していくのは明らかです。
つまり、水道を維持するための財源が足りていないのです。このままでは、将来的に、世界に誇る日本の水道水が維持できなくなってしまうという危機感は、水道関係者はみな抱いています。
従来、私が所属(当時)する生活衛生課の業務は、兵庫県内の水道事業者に許認可を出すため審査をしたり、水質基準を確認することが主なものでした。ですが、前述の危機的な現状や、2018年の水道法の改正もあり、兵庫県内の水道事業体に広域連携を促すことがミッションに加わったのです。
EPISODE 2
業務効率化が図られるなら、市町村連携も叶うはず
各市町村の水道事業体は、基本的に独立運営されています。これまで連携はされていなかったのでしょうか?
これまでは災害のときの連携が中心でした。平時に使用する業務システムや運営ノウハウはほとんど 共有されていない状況でしたね。
しかし、今後水道事業を各市町村が単独で維持することが難しくなるのは明らか。経営面で連携を進めるために県が旗振り役となったのです。
中小規模の水道事業体は、担当人員が少なく、また日々の業務も膨大です。そのため緊急時以外の連携にはなかなか手が回らないのが実情。忙しいことも事実ですが、水道関係者は安定的に水を届けるのが使命なので、何かを変えることに対してかなり慎重な風潮があるように感じました。「このまま“変えたくない”」と思っている人も確かにいるんですよね…。
具体的な連携案は、平成30年3月に「兵庫県水道事業のあり方懇話会」から示されましたが、何を選びどう連携するかは県内の水道事業者に委ねられていました。先ほどもお話しましたが保守的な水道事業者が「何かを変える」には高いハードルがあることはわかっていました。そこで私は水道事業者の皆さんが「今より業務が楽になる」取り組みをしていただきたいと思ったんです。シンプルで業務量が減り、さらにコストダウンに繋がることであれば、検討してもらえると考えました。
その頃、偶然存在を知ったのが「フラクタ」です。新聞をきっかけに、フラクタCEOである加藤さんの著書 “クレイジーで行こう! グーグルとスタンフォードが認めた男、「水道管」に挑む” を読みました。
EPISODE 3
中小規模の事業体を救うのはこれしかないとアメリカに問い合わせ
著書には、アメリカの水道事業者に、コストをかけず効率的にAIを用いて管路更新をしてもらおうと尽力するエピソードが描かれていますね。アメリカには日本以上に小さい水道事業者が多数あります。
はい、本には「小さき6000社の味方」になるとありました。その言葉をみて「これだ」と思い、問い合わせをしたんです。
しかし、当時(2018年)フラクタ社は、本格的に日本進出をする前。私は英語ができないので翻訳ソフトを用いて米国のサイトに何とか問い合わせをしたものの、資料請求用の自動送信メールが返ってきただけで途方に暮れていました。
なんとか接点を持てないかと模索したところ、日本の営業窓口が日本鋳鉄管であることを知り、大急ぎで連絡。すると、現担当である高橋部長がすぐに連絡をくれ、その日の内に会うことができたんです。
日本の水道事情を熟知している日本鋳鉄管が間にいることで、きっと水道事業体のフラクタソフトに対する理解が進むだろうと安心しました。とても心強かったですね。
その後、兵庫県内の水道事業体にフラクタのソフトを紹介しました。また、神戸市が中心となって、兵庫県内の水道事業体を招集していただき、フラクタCEOの加藤さんによる説明会も実施できました。その際に真剣に導入を検討してくれたのが、兵庫県の朝来市です。水道事業の未来に危機感を持っている朝来市上下水道課長である小谷さんが、導入を進めようと言ってくれたんです。
EPISODE 4
日本鋳鉄管の存在が、朝来市フラクタ導入の後押しをした
導入はスムーズにいきましたか?
いえ。実際の導入までには、朝来市内部でも懐疑的な声があったと聞いています。海外の見知らぬ会社が開発したソフトウェアですから、そもそも信用がありません。あっさり導入とはいかないですよね。導入が決まった要因は二つあります。
一つ目は、管路台帳整備をメインの目的に定めたこと。フラクタのソフトへの信用度がない状態なのに、朝来市内部の方々に管路診断の効果に確信をもっていただくのは難しい。そのため水道法の改正により義務化された管路台帳整備を、AIを活用して行うことを目的にすることで、確実に成果が出ることを訴えました。
2つ目は日本鋳鉄管の存在です。これまで日本の水道事業を支えてきた企業に仲介していただけたことが信用を補完することになり、海外発サービスの懸念を払拭することができました。高橋部長と初めてお会いしてから2年弱経っていましたね。
EPISODE 5
中小規模事業体だからできるフラクタの活用法と、コストダウン
かなり大変な道のりだったのですね。朝来市の管路劣化診断の結果はいかがでしたでしょうか?
AIによる劣化診断結果についてはほぼ想定どおり。現場の方々の経験を基にした管路劣化予測の精度の高さが改めて証明されたともいえます。
朝来市の取り組みで非常に素晴らしいと思ったのは、診断結果の使い方です。結果を元に、水道管の管路更新と道路補修工事をリンクさせる計画を立てたんです。基本的に自治体は縦割りの組織。それぞれが独自の計画で上水道や下水道の工事、また道路工事を行っています。これを、どうせ道路補修で地面を掘り起こすのだから、そこに埋設されている水道管の劣化度が高いなら同時に水道管の補修も行おうと、効率化を図ったのです。
この取り組みにより、朝来市トータルでのコスト削減に繋がると伺っています。これは、一人の職員が様々な仕事をしなければならない朝来市のような中小規模の事業体ならではの内部連携であり、全国でも初の事例となりました。事業体同士の連携の前に、まずは内部の連携で確実な効果が出ることが大事。このようなモデルケースを作ることができたことも非常に良かったと思います。
このフラクタ診断結果の活用方法を見て、フラクタは特に中小規模の事業体に有用だなと感じています。人員も予算も足りない中小規模事業体への導入は、一見ハードルが高く感じますが、小回りの効く規模だからこそフラクタの効果を最大限に活用できるのではないでしょうか。
朝来市の取り組みは、厚生労働省のIot活力推進モデル事業にも採択され、補助金が活用されています。
はい。導入を決めたいただいた朝来市にできる限りのサポートをしたかったので、モデル事業として採択してもらえるよう働きかけました。採択までにもかなりの労力を費やしましたが、厚生労働省水道課の理解もあり、無事決まって本当に良かったです。
EPISODE 6
県民の未来の生活を守る。それが我々公務員の責務
数々の困難があった中で、諦めずに導入を推進した原動力を教えてください。
「将来の兵庫県民に水道事業をつなげる」この想い一心です。着任したときから、この想いを県内の水道事業体に伝え続けていました。
今後日本は人口減少が確実。その中でも、安心安全な飲める水を維持することが我々公務員の役割です。これまでは、「変えずに頑張る」ことが大事でしたが、今後の水道事業は変わらないと維持できません。
平成30年3月に出された「兵庫県水道事業のあり方に関する報告書」の表紙には「未来への扉を開く、 襷をつなぐ処方箋」と記されています。処方箋は病気を治す道しるべですよね。それほどまでに、未来のための変化が求められています。将来にツケを回さないよう、我々公務員が今やるべきことをしっかりと実行することが大事だと思っています。
私はその後異動となり、現在は水道事業からは離れました。小さな連携を皮切りに、経営面での市町村連携までを見届けたい気持ちもありましたが、今の持ち場で、県民のみなさんの生活を守っていきたいと思っています。
離れた場所からとはなりますが、今後、兵庫県内の各事業体が一丸となり、安心安全な水道を守り続けて欲しいと願っています。
(取材・構成:井澤 梓/撮影:トパス ジョンキンバルー)